誤った行動(できない)によるヒューマンエラーの種類

やるべき事を正しく認識し、やろうとしたのですが、できなかった場合です。これによるヒューマンエラーが発生する要因と対策を以下の表にまとめました。

内容 対策
1.思っているほどできない  第三者の目
2.慢心  安全・標準作業教育

 
以下に具体的に紹介します。
 

1.思っているほどできない

人は自分の能力についてはなかなか正しく認識できず、過剰評価か、過小評価のいずれかになりがちです。

  • 事例1 プロゴルファーのパット成功率

アメリカのプロゴルフ協会(PGA)は、1988年後半の15トーナメントのパット成功率を測定しました。各トーナメントで芝目がきつくなく、傾斜の比較的緩いグリーンを選び、18インチ以下のショートパットを除外した272本の6フィートパットの成功率は、なんと54.8%でした。プロ達は最低でも6フィートパットの70%は沈められると思っていました。

ベテランのデイブ・バーは「6フィートをせめて85%は入れないと商売ならない。」と言っていましたが、実際の平均成功率が54.8%と聞いて、「信じられない。」と言いました。

  • 事例2 ちゃんと溶接できている?

板金を溶接した部品の溶接部の仕上がりが悪くなったので加工メーカーを訪問したところ、現場の完成品も溶接部の仕上がりが良くありませんでした。

管理者に確認したところ、その作業は最近1ヶ月以内に採用した新人作業者が行っていました。その作業者の思っている「ちゃんとできている」は、製品の必要な品質を満たしていませんでした。

しかも管理者は作業の出来映えを確認していませんでした。
 

2.慢心

始めはミスの多かった初心者も、慣れてくるとミスが少なくなり品質が安定します。ところがさらに習熟しベテランになると、またミスが増えてきます。今まで注意して作業しミスのないことが続くと、「今まで大丈夫だったから、今度もたぶん大丈夫だろう」と確認を省いてしまったり、新しい作業でも「今までと同じやり方だろう」と思い込みで作業をしてしまい、不良を出してしまいます。

本当に熟練を極めた職人は、むしろ「慣れすぎないように」注意しています。

モラール やる気がありすぎても危ない
モラール(morale志気、やる気)が高すぎることで、エラーを引き起こすことがあります。モラールは、目標達成への意志の強さです。しかし実際には以下のような高すぎるモラールによる事故が起きています。

  • 悪天候にもかかわらずスケジュールどおりの運航を強行して事故を起こした
  • 観客を喜ばすために、無理なアクロバット飛行をして事故になってしまった

これは、「スケジュール通りの運航」や「乗客を喜ばす」という目標の達成のために、「乗客の安全」という目標の優先順位が低くなってしまったためです。

また、高すぎるモラールが、設定した目標以上のレベルの行為をさせてしまうことも原因です。これは使命を頑に果たそうとして起こるエラーということで、ミッションーエラーと呼ばれます。集団の中では、自己顕示欲が満たされるため、自分の優れているところを見せたい気持ちになります。

「悪天候でも見事に着陸してみせる」
「観客を驚かせるアクロバットを見せる」

いずれも、うまくいったときの周囲の感嘆の声や眼差は気持ちがよいし、自己の力量を再認識できる機会です。こうしたリスクの高い行為は、わずかな失敗が事故につながってしまいます。

  • 事例1 限界飛行

アメリカ空軍のアーサー・[パド]・ホランド中佐は100トンもある戦略爆撃機B52ストラトフォートレスを戦闘機のように軽々と乗りこなすことで、航空ショーの花形でした。その一方で軍の中には、彼があまりにも頻繁に規則を守らないので一緒に飛ぶことを拒否したものもいました。

1996年6月24日航空ショーの予行演習で、ホランド中佐は、着陸態勢に入った時滑走路に別の機がいるのでもうひと回りしてくるように言われました。このとき低空であまりにも急角度の旋回を行ったストラトフォートレスは、揚力を急激に失い地面に激突。ホランド中佐を含め乗っていた4人が亡くなりました。

彼が度々航空ショーで旋回角度を徐々に深くした時、どの角度までが大丈夫だったのでしょうか。その安全を確保するのが、マニュアルであり規則です。しかし規則を無視した時点で、死と隣り合わせの危険な状態になっていたのです。

  • 事例2 踏切事故

踏切での事故は、死亡など重大な結果を招きますが、今だに完全にはなくなりません。事故は主に列車の本数の多い地区で起き、その被害者の多くが近くに住んでいる人です。

これは踏切を頻繁に利用しているために、遮断機が下りても列車が来るまでにどのくらい時間がかかるか学習するからです。その結果、遮断機が下りていても、まだ大丈夫とバーの下をくぐってしまいます。

このときの列車が来るまでの時間の猶予は、自らの感覚で測っています。しかし感覚のばらつきと列車の通過時刻のばらつきが重なると、時間の余裕がゼロになり事故が起きます。

「遮断機が降りている間は踏切に侵入しない」という基本的なルールさえ守っていれば、事故は決して起きません。

  • 事例3 三菱重工 客船「ダイヤモンド・プリンセス号火災事故」

平成14年10月、三菱重工長崎造船所で建造中の豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」で火災が発生し、船体の4割を焼損しました。火災が発生したのは、進水を終えた「ダイヤモンド・プリンセス」を岸壁に係留し、艤装作業を進めている最中でした。調査の結果、4番デッキで行われていた溶接作業の熱が伝わり、その上の5番デッキの客室内の可燃物に引火しました。

問題の溶接作業を実施したのは、30年以上の経験を持つ三菱重工のベテラン作業員(当時52歳)でした。

配管を固定するための部品を天井に溶接する作業に従事していました。配管の位置関係により天井面に直接溶接する「直溶接」が認められていました。

ただし、天井面に直溶接を行うと、その熱が階上の可燃物に引火する危険がありました。そのため、三菱重工では、可燃物が搬入された区域で直溶接を行う場合には、火気作業届を提出した上で、溶接箇所背面の可燃物を除去し、見張り員を配置してから溶接作業を行うことになっていました。

しかし彼は、火気作業届を提出せず、また、可燃物の除去や見張り員の配置も行わずに直溶接を実施しました。

彼が作業要領に違反したのは、初めてではなく、火災が発生するまでの2週間の間に数十本の部品を直溶接しましたが、いずれも火気作業届を提出していませんでした。同僚がたびたび彼に注意しましが、改めることはありませんでした。

”ものづくり”を尊ぶ風土が存在し、現場の地位が相対的に高いため、現場のベテラン作業員が強い発言権を持ち、管理者側がベテランに遠慮することも原因と考えられます。実は、この事故に先立って、「ダイヤモンド・プリンセス」の船内では、4件の失火事件が発生していました。いずれも初期消火に成功しましたが、4件すべてが、本件と同様に直溶接の際に階上の確認を怠ったことが原因でした。つまりベテランの規則違反が常態化していたのでした。

対策 慣れた時に作業の確認
作業に慣れてくると、少しでも楽にするために自己流のやり方が出てきます。

「Aさんのやり方」「Bさんのやり方」です。

管理者は作業者が慣れた頃、作業のやり方を見たり、作業者とコミュニケーションを取ったりして、自己流のやり方がないか確認します。また作業者からやりにくいところ、改善したいところがないか聞き取ります。能力が高く、改善意欲もある作業者の方が、自己流を取入れる傾向が多いようです。意見を聞くことで彼らの意欲を引き出しつつ、守るべきポイントを指導し、自己流にならないように注意します。

  • 意図的な不安全行動

ドライバーが酒に酔っていた、あるいは携帯電話で通話して自動車事故が起きました。この場合、事故の直接的原因は信号の見落としという意図しないエラーです。

しかし、事故防止のために考えなければならない問題は、飲酒した後に運転する、あるいは運転中に携帯電話を使うという意図的な不安全行動の対策です。

この「不安全行動」は安全マニュアル違反や、明確な違反でなくても事故や労働災害のリスクを高めるような行動を指します。ここでは、「意図的に選択された事故リスクを高める行動」だけを不安全行動と呼ぶことにしましょう。

不安全行動には、自らの意思で安全でない行動を選択するリスク・テイキングのメカニズムと、規則に違反する、あるいは違反を容認する心理的要因の二つが関連しています。

リスク・テイキング行動

あえてリスクの高い行動を取り、問題や事故が発生することがあります。ここでリスクとは、以下の式で表します。

リスク(客観的リスクの主観的見積もり)=(失敗する確率)×(失敗したときの被害)

どういう時に、人はリスクを取るのでしょうか。これは以下の四つの場合があります。

  • 1. リスクを小さく感じる場合
  • たいした危険はないと思えば実行するし、非常に危険だと思えばブレーキがかかります。一方、失敗した場合の損害が甚大でも、失敗する可能性はほとんどないと判断すればリスクをとることを選ぶこともあります。

  • 2. 成功のメリットが大きく感じられる場合
  • メリットには金銭的利益だけでなく、快感、満足感、達成感など心理的なものも合まれます。たとえリスクが大きくても成功した場合の報酬が大きければ人は危険を冒そうとします。

  • 3. リスクを避けたときの損失が大きく感じられる場合
  • 損失は、金銭的損失だけでなく、遠回りになる、時間がかかる、手間がかかる、費用がかかる、作業しにくいなども含まれます。

  • 4. リスク行動自体にメリットがある場合
  • 現場ではあまり考えられないことですが、自動車ドライバーや自動二輪ライダーの中には、スピードを出すこと自体に爽快感がある、ストレス解消になるという人がいます。暴走行為のような危険性が非常に高い行動だけではなく、一般ドライバーでも、長いドライブで眠くなったときなどに、少し飛ばして何台か追い抜くと眠気がおさまる(覚醒水準が上がる)ことがあります。

  • 事例4 かけ込み乗車の確率

列車本数が少ない駅(10~15分間隔)の方が、列車本数の多い駅(2~5分間隔)よりもかけ込み乗車をする人の割合が高くなります。これは前記3. の理由で、次の電車を待てば時間の損失が大きいからと推察されます。

また、階段を上ったところにホームがある駅の方が、階段を下りたところにホームがある駅よりも駆け込み率が高くなります。その理由は、下り階段でつまずくより上引前段でつまずく方が大怪我になる可能性が低く、リスクが小さいと見積もられるからです。

リスク・テイキングの個人差
一般に若い男性はリスクを取る傾向が高く、また、女性は男性よりも行動が慎重(あるいは臆病)な傾向があります。ただし、リスクを取る傾向については、年齢差、男女差よりも個人差の方が大きいとも言われています。


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